さようでございます。

藪の中

やぶのなか

芥川龍之介一九二二

藪の中芥川龍之介

『藪の中』(芥川龍之介、1922年)の書き出しは『さようでございます。』です。

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書き出し全文333字

さようでございます。あの死骸を見つけたのは、わたしに違いございません。わたしは今朝いつもの通り、裏山の杉を伐りに参りました。すると山陰の藪の中に、あの死骸があったのでございます。あった処でございますか? それは山科の駅路からは、四五町ほど隔たって居りましょう。竹の中に痩せ杉の交った、人気のない所でございます。

死骸は縹の水干に、都風のさび烏帽子をかぶったまま、仰向けに倒れて居りました。何しろ一刀とは申すものの、胸もとの突き傷でございますから、死骸のまわりの竹の落葉は、蘇芳に滲みたようでございます。いえ、血はもう流れては居りません。傷口も乾いて居ったようでございます。おまけにそこには、馬蠅が一匹、わたしの足音も聞えないように、べったり食いついて居りましたっけ。

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奥付

作品
藪の中(やぶのなか)
作家
芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ、1892–1927)
初出
「新潮」、1922年
底本
「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房
引用
書き出し333字。青空文庫の本文を底本どおりに引用(くの字点のみ縦書き用の字に置換)

芥川龍之介

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