僕は或知り人の結婚披露式につらなる為に鞄を一つ下げたまま、……

歯車

はぐるま

芥川龍之介

歯車芥川龍之介

『歯車』(芥川龍之介)の書き出しは『僕は或知り人の結婚披露式につらなる為に鞄を一つ下げたまま、東海道の或停車場へその奥の避暑地から自動車を飛ばした。』です。

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書き出し全文364字

僕は或知り人の結婚披露式につらなる為に鞄を一つ下げたまま、東海道の或停車場へその奥の避暑地から自動車を飛ばした。自動車の走る道の両がわは大抵松ばかり茂っていた。上り列車に間に合うかどうかは可也怪しいのに違いなかった。自動車には丁度僕の外に或理髪店の主人も乗り合せていた。彼は棗のようにまるまると肥った、短い顋髯の持ち主だった。僕は時間を気にしながら、時々彼と話をした。

「妙なこともありますね。××さんの屋敷には昼間でも幽霊が出るって云うんですが」

「昼間でもね」

僕は冬の西日の当った向うの松山を眺めながら、善い加減に調子を合せていた。

「尤も天気の善い日には出ないそうです。一番多いのは雨のふる日だって云うんですが」

「雨の降る日に濡れに来るんじゃないか?」

「御常談で。……しかしレエン・コオトを着た幽霊だって云うんです」

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奥付

作品
歯車(はぐるま)
作家
芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ、1892–1927)
底本
「河童・或る阿呆の一生」新潮文庫、新潮社
引用
書き出し364字。青空文庫の本文を底本どおりに引用(くの字点のみ縦書き用の字に置換)

芥川龍之介

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