あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、……

ヴィヨンの妻

ゔぃよんのつま

太宰治

ヴィヨンの妻太宰治

『ヴィヨンの妻』(太宰治)の書き出しは『あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、……』です。

353字約35秒で読めます

文庫・Kindle版

ヴィヨンの妻(新潮文庫)(PR)Amazonアソシエイトのリンクです

書き出し全文353字

あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。

夫は、隣の部屋に電気をつけ、はあっはあっ、とすさまじく荒い呼吸をしながら、机の引出しや本箱の引出しをあけて掻きまわし、何やら捜している様子でしたが、やがて、どたりと畳に腰をおろして坐ったような物音が聞えまして、あとはただ、はあっはあっという荒い呼吸ばかりで、何をしている事やら、私が寝たまま、

「おかえりなさいまし。ごはんは、おすみですか? お戸棚に、おむすびがございますけど」

と申しますと、

「や、ありがとう」といつになく優しい返事をいたしまして、「坊やはどうです。熱は、まだありますか?」とたずねます。

これも珍らしい事でございました。

この続きは青空文庫で