あわただしく、
玄関を あける 音が 聞えて、 私は その音で、 眼を さましましたが、 それは 泥酔の 夫の、……
ヴィヨンの妻
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あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。
夫は、隣の部屋に電気をつけ、はあっはあっ、とすさまじく荒い呼吸をしながら、机の引出しや本箱の引出しをあけて掻きまわし、何やら捜している様子でしたが、やがて、どたりと畳に腰をおろして坐ったような物音が聞えまして、あとはただ、はあっはあっという荒い呼吸ばかりで、何をしている事やら、私が寝たまま、
「おかえりなさいまし。ごはんは、おすみですか? お戸棚に、おむすびがございますけど」
と申しますと、
「や、ありがとう」といつになく優しい返事をいたしまして、「坊やはどうです。熱は、まだありますか?」とたずねます。
これも珍らしい事でございました。