人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。

赤いろうそくと人魚

あかいろうそくとにんぎょ

小川未明一九二一

赤いろうそくと人魚小川未明

『赤いろうそくと人魚』(小川未明、1921年)の書き出しは『人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。』です。

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書き出し全文364字

人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。

北方の海の色は、青うございました。あるとき、岩の上に、女の人魚があがって、あたりの景色をながめながら休んでいました。

雲間からもれた月の光がさびしく、波の上を照らしていました。どちらを見ても限りない、ものすごい波が、うねうねと動いているのであります。

なんという、さびしい景色だろうと、人魚は思いました。自分たちは、人間とあまり姿は変わっていない。魚や、また底深い海の中に棲んでいる、気の荒い、いろいろな獣物などとくらべたら、どれほど人間のほうに、心も姿も似ているかしれない。それだのに、自分たちは、やはり魚や、獣物などといっしょに、冷たい、暗い、気の滅入りそうな海の中に暮らさなければならないというのは、どうしたことだろうと思いました。

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