或曇った冬の日暮である。

蜜柑

みかん

芥川龍之介

蜜柑芥川龍之介

『蜜柑』(芥川龍之介)の書き出しは『或曇った冬の日暮である。』です。

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書き出し全文308字

或曇った冬の日暮である。私は横須賀発上り二等客車の隅に腰を下して、ぼんやり発車の笛を待っていた。とうに電燈のついた客車の中には、珍らしく私の外に一人も乗客はいなかった。外を覗くと、うす暗いプラットフォオムにも、今日は珍しく見送りの人影さえ跡を絶って、唯、檻に入れられた小犬が一匹、時々悲しそうに、吠え立てていた。これらはその時の私の心もちと、不思議な位似つかわしい景色だった。私の頭の中には云いようのない疲労と倦怠とが、まるで雪曇りの空のようなどんよりした影を落していた。私は外套のポッケットへじっと両手をつっこんだまま、そこにはいっている夕刊を出して見ようと云う元気さえ起らなかった。

が、やがて発車の笛が鳴った。

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奥付

作品
蜜柑(みかん)
作家
芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ、1892–1927)
底本
「蜘蛛の糸・杜子春」新潮文庫、新潮社
引用
書き出し308字。青空文庫の本文を底本どおりに引用(くの字点のみ縦書き用の字に置換)

芥川龍之介

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