童 や
あ、 あそこへ 妙な 法師が 来た。
往生絵巻
文庫・Kindle版
地獄変・偸盗(新潮文庫)(PR)Amazonアソシエイトのリンクです
童 やあ、あそこへ妙な法師が来た。みんな見ろ。みんな見ろ。
鮓売の女 ほんたうに妙な法師ぢやないか? あんなに金鼓をたたきながら、何だか大声に喚いてゐる。……
薪売の翁 わしは耳が遠いせゐか、何を喚くのやら、さつぱりわからぬ。もしもし、あれは何と云うて居りますな?
箔打の男 あれは「阿弥陀仏よや。おおい。おおい」と云つてゐるのさ。
薪売の翁 ははあ、――では気違ひだな。
箔打の男 まあ、そんな事だらうよ。
菜売の媼 いやいや、難有い御上人かも知れぬ。私は今の間に拝んで置かう。
鮓売の女 それでも憎々しい顔ぢやないか? あんな顔をした御上人が何処の国にゐるものかね。
菜売の媼 勿体ない事を御云ひでない。罰でも当つたら、どうおしだえ?
童 気違ひやい。気違ひやい。
五位の入道 阿弥陀仏よや。おおい。おおい。
犬 わんわん。わんわん。
物詣の女房 御覧なさいまし。可笑しい法師が参りました。
その伴 ああ云ふ莫迦者は女と見ると、悪戯をせぬとも限りません。幸ひ近くならぬ内に、こちらの路へ切れてしまひませう。
鋳物師 おや、あれは多度の五位殿ぢやないか?
奥付
- 作品
- 往生絵巻(おうじょうえまき)
- 作家
- 芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ、1892–1927)
- 底本
- 「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
- 引用
- 書き出し478字。青空文庫の本文を底本どおりに引用(くの字点のみ縦書き用の字に置換)
芥川龍之介
同じ作家の書き出し
- 羅生門ある
日の 暮方の 事である。 - 鼻禅智内供の
鼻と 云えば、 池の 尾で 知らない 者は ない。 - 蜜柑或曇った
冬の 日暮である。 - 蜘蛛の糸ある
日の 事で ございます。 - トロッコ小田原熱海間に、
軽便鉄道敷設の 工事が 始まったのは、 良平の 八つの 年だった。 - 杜子春或春の
日暮です。 - 藪の中さようで
ございます。 - 歯車僕は
或知り人の 結婚 披露式に つらなる 為に 鞄を 一つ 下げたまま、 東海道の 或停車場へ その 奥の 避暑地から 自動車を 飛ばした。 - 地獄変堀川の
大殿様の やうな方は、 これまでは 固より、 後の 世には 恐らく 二人とは いらつしや いますまい。 - 河童これは
ある 精神病院の 患者、 ――第二十三号が だれに でも しゃべる 話である。 - 六の宮の姫君六の
宮の 姫君の 父は、 古い 宮腹の 生れだつた。 - 竜宇治の
大納言隆国 「やれ、 やれ、 昼寝の 夢が 覚めて 見れば、 今日は また 一段と 暑いようじゃ。