童 やあ、あそこへ妙な法師が来た。

往生絵巻

おうじょうえまき

芥川龍之介

往生絵巻芥川龍之介

『往生絵巻』(芥川龍之介)の書き出しは『童 やあ、あそこへ妙な法師が来た。』です。

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書き出し全文478字

童 やあ、あそこへ妙な法師が来た。みんな見ろ。みんな見ろ。

鮓売の女 ほんたうに妙な法師ぢやないか? あんなに金鼓をたたきながら、何だか大声に喚いてゐる。……

薪売の翁 わしは耳が遠いせゐか、何を喚くのやら、さつぱりわからぬ。もしもし、あれは何と云うて居りますな?

箔打の男 あれは「阿弥陀仏よや。おおい。おおい」と云つてゐるのさ。

薪売の翁 ははあ、――では気違ひだな。

箔打の男 まあ、そんな事だらうよ。

菜売の媼 いやいや、難有い御上人かも知れぬ。私は今の間に拝んで置かう。

鮓売の女 それでも憎々しい顔ぢやないか? あんな顔をした御上人が何処の国にゐるものかね。

菜売の媼 勿体ない事を御云ひでない。罰でも当つたら、どうおしだえ?

童 気違ひやい。気違ひやい。

五位の入道 阿弥陀仏よや。おおい。おおい。

犬 わんわん。わんわん。

物詣の女房 御覧なさいまし。可笑しい法師が参りました。

その伴 ああ云ふ莫迦者は女と見ると、悪戯をせぬとも限りません。幸ひ近くならぬ内に、こちらの路へ切れてしまひませう。

鋳物師 おや、あれは多度の五位殿ぢやないか?

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奥付

作品
往生絵巻(おうじょうえまき)
作家
芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ、1892–1927)
底本
「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房
引用
書き出し478字。青空文庫の本文を底本どおりに引用(くの字点のみ縦書き用の字に置換)

芥川龍之介

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