堀川の
大殿様の やうな方は、 これまでは 固より、 後の 世には 恐らく 二人とは いらつしや いますまい。
地獄変
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堀川の大殿様のやうな方は、これまでは固より、後の世には恐らく二人とはいらつしやいますまい。噂に聞きますと、あの方の御誕生になる前には、大威徳明王の御姿が御母君の夢枕にお立ちになつたとか申す事でございますが、兎に角御生れつきから、並々の人間とは御違ひになつてゐたやうでございます。でございますから、あの方の為さいました事には、一つとして私どもの意表に出てゐないものはございません。早い話が堀川のお邸の御規模を拝見致しましても、壮大と申しませうか、豪放と申しませうか、到底私どもの凡慮には及ばない、思ひ切つた所があるやうでございます。中にはまた、そこを色々とあげつらつて大殿様の御性行を始皇帝や煬帝に比べるものもございますが、それは諺に云ふ群盲の象を撫でるやうなものでもございませうか。あの方の御思召は、決してそのやうに御自分ばかり、栄耀栄華をなさらうと申すのではございません。それよりはもつと下々の事まで御考へになる、云はば天下と共に楽しむとでも申しさうな、大腹中の御器量がございました。
奥付
- 作品
- 地獄変(じごくへん)
- 作家
- 芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ、1892–1927)
- 底本
- 「芥川龍之介全集 第一巻」岩波書店
- 引用
- 書き出し443字。青空文庫の本文を底本どおりに引用(くの字点のみ縦書き用の字に置換)
芥川龍之介
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